
大豆の魅力を広めていきたいSOY Mag.編集部では、海外での大豆の活用にも興味を持っています。そこでまず注目したのが台湾です。
台湾の食文化と言えば、屋台や夜市が思い出され、朝昼晩すべての食事を外食やテイクアウトで済ませると言われています。最近では、日本でも、豆乳スイーツ「豆花(トウファ)」や、朝食の定番「鹹豆漿(シェントウジャン)」といった台湾グルメの専門店が増えてきました。
身近になった台湾の食文化において、大豆はどうやって食べられているのか。「大豆」という視点で現地を歩いてみたら、どんな一皿に、どんな人に出会えるのだろうか。
今回は、豆腐マイスターの工藤詩織さんに、まだ見ぬ「大豆のごちそう」を求めて、台湾各地を巡ってきてもらいました。「台湾大豆紀行」、前編・中編・後編の3本立てでお届けします。

日本でもすっかりおなじみとなった「豆花(トウファ)」。豆乳を固めてつくる実にシンプルなスイーツですが、地域や店によって、その食感やシロップ、トッピングもさまざまなスタイルで提供されています。まずは、台北、台東、台南、高雄と、各地の豆花を食べ比べました。

台北ではじめに向かったのは、「鹽滷(イエンルー)」=「にがり」を使った豆花をつくる「雹仔豆花」。伝統的には「すまし粉」と呼ばれる石膏を原料とした凝固剤や、地瓜粉(でんぷん)を使って柔らかく固める製法が主流ですが、大豆の風味を引き出す作用がある「にがり」を使った豆花を提供するお店もあると知り、興味津々。あずき、緑豆、ピーナッツの定番トッピングに、豆乳ベースのシロップ。レンゲですくいあげても簡単には崩れないしっかり食感の豆花は、ほんのり塩気が感じられるのが特徴です。日本のみたらし団子や塩豆大福にも通ずる“甘じょっぱさ”が、なんともあとを引きます。店内を見渡すとお椀を傾けて最後の一滴まで飲み干す人も!思わず私も真似をしてしまいました。
雄大な自然と台湾原住民族文化が根付く、台東。のどかな街角に佇む「碗粿菜燕豆花」は、半世紀近く変わらない「古早味(古き良き味)」を楽しめるローカル店です。レトロな日用品店の軒先に、移動式調理台がぽつりと置かれているだけなので、一瞬通り過ぎてしまいそうなほどこじんまりと営業していました。バイクに跨いだままテイクアウトをする地元客の姿に、この土地で長く愛されていることが伺えます。

オーダーしたのは店名にもある、海藻で作る寒天ゼリー「菜燕(ツァイヤン)」や、ハトムギ、緑豆など具沢山の豆花。

食感が楽しく、食後のデザートやおやつというよりも、一食分に相当するほどの食べ応え。ブラウンのシロップが器のフチまで注がれて、年季ですこし傾いた卓上で今にも溢れ出しそうでした。

台湾南部の台南や高雄は果物の産地。フルーツを使った豆花も豊富です。
台南でふらっと立ち寄った「邱家豆花」では、季節限定の百香果豆花(パッションフルーツ豆花)をオーダー。丸々一個分のパッションフルーツの果肉と種が、ヘラでぐるりと掻き出された瞬間、思わず「わぁ……」と声が漏れてしまいました。鼻を抜ける南国の香りがいつまでも続く贅沢な一杯は、いつか自宅でも再現したい、と思える豆花ナンバーワンでした!

高雄の「鹽埕吳家豆花」では、名物「金柑豆花」を味わいました。豆花にシロップと青い金柑を添えただけの潔い佇まいに、どこか自信すら感じます。糖漬けにされた金柑の酸味と皮のほろ苦さが、とろみのあるシロップの甘みをきゅっと引き締めるアクセントになっています。

じめっとした高湿な気候を忘れさせてくれるようなすっきり感。これは何杯でもいける美味しさです! 実は、この豆花を食べるためだけに数時間立ち寄った高雄でしたが、わざわざ行く価値あり! と太鼓判を押したくなる豆花です。
他にも、黒豆の豆花や、パクチーがのった豆花、シャーベットやプリンがのった豆花など、個性的な豆花の数々に遭遇しました。長く愛されてきたからこそ、自由で懐が深い豆花。次はどんな一杯に出会えるのだろう? と、何軒でも巡りたくなってしまう魔力があります。
台湾といえば、朝ごはん文化。町中を歩けば「早餐(ザオツァン)」、つまり「朝食」という看板が目に入ります。正直普段は夜型の人間でも、台湾に来たからにはおいしい朝ごはんのためにいつもは苦手な早起きがしたくなるのは不思議です。
その定番は、やっぱり「鹹豆漿(シェントウジャン)」。豆乳を酢の力でおぼろ豆腐状に固めたスープです。

台北の東門駅近くにある「青島豆漿店」は地元で人気の老舗で、出勤前に立ち寄る人も多いようです。

看板メニューの鹹豆漿は、昔ながらの直火で炊く製法で、ほんのり香ばしい焦がし風味が特徴。お酢で豆腐を凝固させた後のスープは澄んでいて、塩気のきいたザーサイやエビの旨みが凝縮されています。店先のドラム缶型の窯で焼かれる、サクサクの豚肉パイ「肉餅」と一緒に食べるのが定番の組み合わせです。肉餅のジューシーな肉汁と豆乳スープの旨味の無限ループで、一日の活力をチャージ完了!

各地で開かれる夜市に出向けばもれなく遭遇する「く、臭い!」と思わず顔を背けてしまう何にも例えようのない香り。その正体は「臭豆腐」です。豆腐を、野菜や果物、米、塩や香辛料などを加えた発酵液に漬けてつくられます。微生物がタンパク質を分解する過程で、硫化水素やアンモニアなどの成分が発生し匂いを発する一方、アミノ酸などの旨みも生み出し、臭いだけではない、複雑で奥深い味わいがあります。
正直、私も得意ではありませんが、現地に来たからには体験を! と、自身を鼓舞し、台北・寧夏夜市の「里長伯臭豆腐」で揚げ臭豆腐3種プレートに挑戦。伝統的なキャベツの漬物を添えた揚げ臭豆腐に加え、アヒルの卵黄ソースをかけた現代風の一品と、臭豆腐入りの揚げワンタンが盛り合わせになっています。「高温で揚げると匂いが和らぐ」という評判はいかに……。

たしかに、マヨネーズの風味の卵黄ソースやカリカリの皮に包まれた現代風の臭豆腐は、匂いも和らぎ、食べやすく、旨みもしっかり感じられます。しかし、食べ進めて油断した頃にやってくる、あの香りは健在でした。
他にも、煮込み料理やスープなど、バリエーション豊かな臭豆腐料理屋台が夜市を彩り、賑わいを見せていましたが、仲良くなるには、もう少し時間が必要なようです。

古都・台南の「蝸牛巷(かたつむり横丁)」と呼ばれる昔ながらの風情が残る路地裏を歩いていると、町工場のような建物から雲のように湯気が立ち上り、大豆の甘い匂いが漂ってきました。

こちらは1950年代から続く、豆腐・豆乳を販売する老舗「義發豆腐工廠」です。午後2時半になると工場の入り口で豆乳販売が始まり、地元の常連客と思われる人々が、やかんや鍋など各々の容器を持参して、熱々の豆乳を購入しています。その光景を羨ましそうに眺めている私が観光客だと気づいたお客さんが、どうやら「この人に工場を見せてあげたら?」と勧めてくれたようで、今度は店主がこちらを見て手招き。なんと、製造真っ只中の現場に潜入させていただくことができました。これまでに見た日本の町の豆腐店よりもはるかに大きな豆乳プラントを前に、淡々と作業をする3人の熟練の職人たち。何口にも枝分かれした管から勢いよく絞り出された豆乳は、布袋で丁寧に漉され、次々と袋詰めされていきます。

袋で販売される豆乳は3サイズから選ぶことができ、一番小さなサイズは台湾30ドル(日本円で約150円程度)で、なんと1.5L以上! その量に一瞬ひるみつつも、どうしても味わいたかったので購入しました。工房で嗅いだ芳醇な香りがそのまま閉じ込められた豆乳は、後味のくどさがなくゴクゴクと喉を通ります。さすがにその場で飲み切ることはできず、旅中に集めた空のペットボトルたちに移し替え、バックパックに豆乳を大量に背負って旅することになりました(笑)。

豆花から鹹豆漿、臭豆腐、出来立ての豆乳まで。大豆というひとつの食材に焦点を当てるだけでも、台湾の食文化を満喫することができました。次はその土地ならでは気候を生かした発酵食を訪ねていこうと思います。さてどんなところでどんな「大豆のごちそう」に出会えるのでしょうか。
(取材・文・写真:工藤 詩織/編集:久野 高義)
工藤 詩織
豆腐マイスター