すぼ豆腐から見えてくる、郷土の色──静かな食べもの、その奥にあるもの 

すぼ豆腐から見えてくる、郷土の色──静かな食べもの、その奥にあるもの 

「まめとひと」のイベントで、ひときわ多くの人の心をつかんだ一品がありました。島根の山あいで静かに受け継がれてきた「すぼ豆腐」です。あの素朴であたたかな味わいは、どんな土地で、どんな人の手から生まれているのか──豆腐マイスターの工藤詩織さんが、島根県西部の工房を訪ねました。


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島根県西部「真砂のとうふ」の工房で豆乳を炊く職人
水槽の中で木綿豆腐を切り分ける職人の手
できあがった豆腐を手で確かめる真砂のとうふの女性職人

白くて、やわらかくて、主張しない。
食卓にあっても、どこか静かにそこにある食べものです。けれども、その“静けさ”の奥にこそ、土地ごとの違いがそっと隠れています。

大豆と水、にがりというシンプルな材料だからこそ、つくり方の違いがそのまま味や食感にあらわれます。その土地ごとの気候や水質、作り手の所作によっても、少しずつ表情が変わっていきます。

もともと日持ちのしにくい豆腐は、各地で保存の工夫が重ねられてきました。水分を飛ばし燻したり、塩分を含ませたり、寒空の下で凍らせたりと、冷蔵環境のない時代の知恵が積み重なり、さまざまなかたちが生まれていきました。

たとえば沖縄の「島豆腐」のように広く知られるものがある一方で、今も限られた地域の中で静かに受け継がれている豆腐もあります。そうした「郷土豆腐」は、その土地の暮らしを映す存在でもあります。

里山のハレの日のごちそう「すぼ豆腐」とは?

そのひとつが、島根県西部の山あいに残る「すぼ豆腐」です。

豆腐を巻きす(簾)や藁で包み、火を通して筒状に成形したあと、出汁や調味料で味を含ませていきます。特徴的なのは、あえて内部に「す」をつくることです。豆腐の中の水分が沸騰してできた細かなすきまに味が染み込み、保存性も高まります。

表面には、巻き簾の跡がそのまま残ります。少しごつごつとした手ざわりと、しっかりとした弾力。薄く切ると、じんわりと大豆の風味が広がります。

こうした豆腐の製法は他の地域にも見られます。たとえば岐阜の飛騨や郡上では「こも豆腐」と呼ばれるなど、呼び名や味付けはさまざまです。似たかたちでありながら、それぞれの土地で少しずつ違う姿で生まれ、根付いてきました。

巻きすの跡が残る筒状のすぼ豆腐を薄く切る

真砂で受け継がれる豆腐づくり

このすぼ豆腐を、いまも製造・販売しているのが「真砂のとうふ」(以下、真砂のとうふ)です。

この地域では、かつて各家庭で大豆から豆腐をつくる暮らしがありました。できたてをそのまま食べ、寒い季節には汁物に入れ、正月にはすぼ豆腐を用意する。豆腐は、日常にも節目にも寄り添う存在であり、すぼ豆腐はハレの日のごちそうでした。

現在は、そうした郷土の味を次の世代へと伝える役割も担いながら、豆腐づくりが続けられています。真砂のとうふでは、地元の大豆と山の伏流水を使い、直火でじっくりと豆乳を炊き上げていきます。

火にかけた鍋の中で、豆乳は木べらで混ぜ続けられます。炊き上がったあとに残る、うっすらと色づいた膜。このわずかな「焦げ」が、真砂の豆腐ならではの風味を生み出します。こうした直火炊きの豆腐づくりは、どこかローテクで、素朴な営みです。けれど、その手ざわりにこそ、大量生産にはない魅力があります。

直火炊きの大釜で豆乳を木べらで混ぜ続ける
炊き上がった豆乳の釜に残る、うっすら色づいた膜

こうした豆腐をつくっているのは、この地域で長く手仕事を担ってきた女性たちです。受け継がれてきた技術と感覚によって、日々の豆腐がつくられています。

私自身も昨夏この土地を訪れ、最年長の豆腐職人である城市フミさん(以下、フミさん)に、すぼ豆腐づくりを教わりました。

木綿豆腐を縦にふたつに切り並べ、巻きすで包んで大きなお鍋で煮ること15分。筒状に形成している間に、いりこ出汁やしょうゆ、みりん、酒、砂糖で煮汁を作っておきます。

巻きすを外した豆腐をその煮汁に入れて昆布を入れてから弱火でさらに煮込み、仕上げに山椒を軽く振れば、できあがりです。すぐに食べずに寝かせると、さらに味が染み込んできます。

巻きすで包んだ豆腐を大鍋で煮るすぼ豆腐づくり(城市フミさん)
巻きすで包んで筒状に成形した豆腐

「真砂に嫁に来た時から、隣近所の豆腐づくりを見せてもらってね。最初は“見よう見まね”でした。昔はお祭りとお正月、行事の時には、すぼ豆腐を作ってお重に詰めました。ハレの日に食べるごちそうでしたよ」

そんな懐かしのエピソードとともに、手際よく手を動かすフミさんの姿がとても印象的でした。

外見は素朴で、表面には巻きすの跡が残ります。薄く切ってひと口かみしめれば、しっかりとした弾力と、素朴な大豆といりこ出汁のうま味がじんわりと広がります。直火炊きの豆乳ならではの煎り豆のような香ばしさもほのかに感じられ、すっと鼻から抜けていきます。派手ではないけれど、どこか印象に残る味わいです。日持ちも長いので、少しづつ楽しめるのも嬉しいポイントです。

真砂地区では、過疎化や高齢化といった地域課題を抱えています。かつては各家庭でつくられていたすぼ豆腐も、いまでは自ら仕込む家はほとんどないそうです。

それでも、真砂のとうふは、フミさんの記憶をもとに変わらぬ味を届け続けています。その味は少しずつ外へと広がり、いまでは地域の外でも親しまれる存在となりつつあります。

土地ごとにちがう、豆腐の魅力

私は初めて訪れた土地では、よく豆腐売り場に立ち寄ります。

スーパーや産直の棚をのぞきながら、“その土地らしい豆腐”がないか探してみたり、地元の人に、よく食べる豆腐や食べ方を聞いてみたりします。その土地で積み重ねられてきた暮らしにふと触れると、豆腐の底力を感じることができます。

“いつもの豆腐”も、どこで、どのようにつくられているのか、目を向け想像してみると、少し違って見えてきます。そんなささやかな楽しみを、これからも続けていきたいと思っています。

みなさんもぜひ、さまざまな土地の豆腐を味わいながら、その背景に思いをめぐらせてみてはいかがでしょうか。

すぼ豆腐づくりを教わる工藤詩織さんと城市フミさん

(取材・文:工藤 詩織)


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工藤 詩織

豆腐マイスター

幼少から豆中心の食生活を送り、豆腐がいつも暮らしの中心にある無類の豆腐好き。日本語教師を目指して勉強する過程で、食文化も一緒に伝えたいと「豆腐マイスター」資格を取得。各地で親子向けの手作り豆腐ワークショップやイベントなどを開催。全国の豆腐店や大豆生産者との交流を重ねながら、おいしい豆腐で人と人を繋ぐ活動を行っている。

メディア情報

・書籍名:『まいにち豆腐レシピ』
出版社:池田書店
出版年:2021年
概要:毎日の食卓に取り入れやすい豆腐レシピを多数掲載。豆腐の魅力を再発見できる一冊。

・2015年 日本テレビ『ヒルナンデス!』
・2016年 TBS『白熱ライブ ビビット』
・日本テレビ『ワケあり!レッドゾーン』
・TOKYO FM『高橋みなみの「これから、何する?」
・2018年TBS『マツコの知らない世界』「豆腐の世界」
・2021年TBS『マツコの知らない世界』「油揚げの世界」